令和6年度 PBL教育支援プログラム 成果報告「電子工学ゼミA」

2025.04.01

開講学部 理工学部/電子工学系
科目名 電子工学ゼミA
担当教員 【理工学部/電子情報・生体医工学系】
荒船 龍彦・大西 謙吾・矢口 俊之・趙 崇貴

Q1 PBLを導入した意図・目的

電子工学系として2年生に該当する受講生は、電子・情報の基礎を学ぶ一方、基礎力がついてからの応用学問領域としての生体医工学への展開には早いという側面がある。通常であれば4年生の卒研配属からの卒業研究テーマとして本格的に取り組むのが学びのスケジュールとして妥当だが、せっかく生体医工学に関心を持って入学した学生が、生体医工学に大いに触れることなく3年間のモチベーションを維持しつづけるのは困難である。そこで我々が注目したのがPBL科目である。自ら調べ、自ら考え、そして一方的に受動的に受ける講義スタイルではなく、多少失敗を繰り返しながらモノづくりに取り組む講義を2年生において実施することで、(1)試行錯誤しながらモノづくりをする楽しさ、(2)現在の自分たちの立ち位置(学力、モノづくりスキル、知識、経験、課題解決能力)を具体的に把握することで自らに足りないものを自己発見する機会、を与えることができると考えた。

Q2 授業におけるPBLの実践方法

電子工学ゼミでは『ハッカソン』形式の講義・演習を取り入れた。
通常のハッカソンであれば、開催日に集まった見ず知らずの参加者同士チームを組んで課題に取り組むのが一般的であるが、本講義は2年次電子工学系全員が参加するため90人と人数が多く、チームビルディングに割いている時間の余裕が無いと判断した。
(1) まずアイスブレイクとしてランダムに組んだ2人ペアで1分間でプレゼン、1分間で質疑応答の経験を積ませる。この2人ペアを幾度となくリセットし、慣れさせる。
(2) 課題提供を講義形式で実施し、与えられたテーマに対する課題解決アイデアを複数考案させ、後でオンラインフォームに提出させる。
(3) 考えたアイデアをもとに1分プレゼン、1分質疑応答をランダムに組ませた2人ペアで行い、この2人ペアを次々に変えていく。
(4) 最終的に1つの課題解決アイデアに絞り込み、それをビジネスプランとして1枚スライドに収めてそれを改めて全員の前で1分でプレゼンさせる。
(5) 1班6名程度の班分けを教員側で行い、チームでアイデアを1つに絞り込み、モノづくり(プロトタイピング)を行う
(6) プロトタイピングの期間は教員、副手が各班を回って技術面、ビジネスモデル面から助言を行いながら、あくまで自分たちの頭で考えた方法でプロトタイピングを行わせる
(7) 最終的に完成したものを班ごとにプレゼンさせ、開発したデバイスのデモも同時に行わせる。教員と副手から質問、コメントを行う。

Q3 授業における成績評価方法

<評価方法>
個人の実習用ノートの記載内容(30点)+成果発表(30点)+グループ単位による報告書(40点)=100点で、遅刻減点を加味し、総合で60点以上を合格とする。
ただし、既定の出席条件を満たし、本授業終了時に全ての報告書(グループ単位)が提出されていること、成果発表会へ出席していること、を単位認定の条件とする。
コロナ禍でオンラインとなった場合はノート評価ではなく
オンラインでのグループワークへの参加状況と出席状況の総合的評価(60点)+成果発表(40点)=100点で遅刻減点を加味し、総合で60点以上を合格とする。
<遅刻・欠席について>
授業の遅刻または欠席は、1回につき3点減点とする。
4回以上の欠席は、放棄とみなす。
授業開始から10分以上の遅刻は欠席とみなす。
また、遅刻3回を欠席1回とみなす。
授業を欠席した場合:理由に関わらず、可及的速やかに欠席届を主担当教員へ提出すること。
授業を遅刻した場合:やむをえない理由による場合は、証明書類(遅延証明等)に学籍番号・氏名を付記して主担当教員へ提出すること。

もともとのモノづくりスキル(ソフトウエア、ハードウエア)が最終成果物の完成度に直結するため、成果物の完成度で成績を付けるのではなく、プレゼンやプロトタイピングでの参加の姿勢で成績評価を行うという狙いがある。
例えばプレゼンであれば、フォーマットや取り決めルールの順守などを採点要因として用いた。

Q4 学習成果の可視化への取組み

最終プレゼンでは、プレゼン資料だけでなく、各自がプロトタイピングで製作した成果物のデモも行うルールとしたことで、他班と比較しながら自分たちが製作したプロトタイプの完成度について客観的に把握できるようにした。
各班内で役割分担をあらかじめ設定させ、プロトタイピング以外に
・競合調査
・コスト調査
・技術調査
の担当者がそれぞれの調査内容を班内にフィードバックさせる回を複数設けた。これにより独りよがりの調査ではなく、『他者に必要とされる情報の収集と取捨選択、伝達』の経験を持たせることで、班内メンバー同士でそれぞれの情報の内容や質について吟味させてお互いに評価が可能となった。

Q5 PBLを発展させるための課題

学外での、例えば学会主催、企業主催のハッカソンの運営や参加者としての経験が豊富な教員が電子工学系に備わっていたことから、ハッカソン形式の演習の導入が比較的容易であるという側面があった。
ノウハウを文書化し、電子情報・生体医工学系教員であればだれでも本講義が実施できるようにしていくことで、より新しいアイデアが導入される、などの取り組みが必要と考える。
また、モノづくり期間においては、各種アドバイスや指導ができるソフトウエアやハードウエア開発になれた大学院生が多数必須となるため、年度によってどうしてもその質にばらつきが生じてしまう側面がある。この副手の質が、ハッカソンでの参加学生の能力向上に非常に影響が大きいことが分かっており、質の高い副手を多くそろえることが課題である。

Q6 授業の概要と進め方

今日の電子・機械関連分野において、エレクトロニクス・情報通信機器の心臓部を担っているのは、電子デバイスである。本講義では、電子デバイスの基礎となる電気回路、電子回路、論理回路、信号計測、マイコン制御等を理解し、設定されたテーマに対する課題解決(グループワーク)を通じて、電子工学の素養を身に着けることを目的とする。
 また、本講義を通じて、電気・電子工学、機械工学、人間医工学などの分野で活躍するために必要な専門知識や技術の基礎を身につけることを目的とする。

履修者は、本講義終了時には、グループワークによる課題解決を通じて、次を達成目標とする。
・グループワークを通じ、テーマの問題解決にむけたサービスを提案できる。
・提案するサービスの実現にむけた電子デバイスの設計(回路・プログラム)のための情報収集を行い、説明できる。
・設計したデバイスの試作のための作業計画の立案、時間・作業管理ができる。
・試作した電気・電子回路、信号計測・処理、マイコン制御等の回路・プログラムの説明、実演、批評と討議ができる。 
 また、本講義を通じ、電気・電子工学、医用工学を中心とする専門知識と技術の基礎を身につけることを目標とする。


〇PBLを主体とした教育への取組みに対する支援(PBL教育支援プログラム学内公募)

東京電機大学教育開発推進室では、平成23年度から「学生が主体となって学ぶ」形式を取り入れた、いわゆる「PBL(Problem-Based Learning又はProject-Based Learning)」による教育の開発・運営を「PBL教育支援プログラム」として支援し推進しています。
PBL教育支援プログラムは、これからPBLを取り入れていこうと考えている教員やすでに実践しているPBLをさらに工夫しようと考えている科目を対象に支援を行い、その実践と成果を学内の関係者と共有し、学生の学びを主体とした教育の推進を図ることを目的としています。